施術部の伊藤です。
GWの連休が明けたばかりの5月6日、認知症があり施設入所しているMさんの訪問マッサージに行きました。Mさんは去年の4月半ばぐらいまでは話が出来ていたのですが、コロナの感染拡大で施設への面会制限が掛かり、私たちも施術に入れなくなった期間が約2ヶ月ありました。ようやく再開しMさんに話し掛けると、頷く反応はあるのですが話をしなくなってしまいました。入社したばかりの頃、院長から「認知症の方は特徴としてエピソード記憶が消えてしまうけど、言われていることは分かっているから、どうせもう分からないから話さないではなく、普通に話していくことが大切だよ。」と教わっていたので、Mさんの反応はありませんでしたが、今までのように普段通り話し掛けることを続けてきました。
そして今回の訪問、いつものように接しながら右腕の施術を始めた時です。サポートで入ってくれている達ちゃんに向かって、突然Mさんがモゴモゴと何か話し出したのです。「分かんね…。誰だか分かんねぇ。」と、大きな声ではっきりしゃべったのです。達ちゃんはMさんの声を聞いたのが初めてだったので、驚きながらも自己紹介をすると、Mさんは納得した様子でした。
約一年振りにはっきりとしゃべったので、私は驚いて「Mさん!声出たね!」と言うと、すぐ「はいっ」と応えてくれて、私はビックリと嬉しさで、「Mさん!久し振りに声が聞けて嬉しい!!」と思わず言ったら、Mさんは「嬉しい♪、嬉しい♪、嬉しいよ♪」と、節を付けたように応えてくれたのです。嬉しくて、その後も「Mさん、嬉しい!ありがとう!」と言うと、「はいよ」と答えてくださり、そんなやり取りが数回続きました。それだけではなく、右肩の関節可動域訓練の際、「Mさん、肩痛くないですか?」と確認すると、「肩、堅い。」と応えてくれました。
施術が終わり「次は明日来ます。」と伝えると、「明日ない(明日ね)。」と返事をしてくれました。この日は顔色も良かったようで、退室してから施設のスタッフさんに状況を報告すると、「そうなんです、マッサージのお陰か最近話しをしたり歌を歌ったりしているようです。」とお話がありました。入社当初、毎回院長と一緒に入らせてもらい、院長との会話のやり取りを見学させてもらっていた時に、私もMさんの歌を聴いていたので、「また歌えるようになったのかぁ…」と、スタッフさんの話がすごく嬉しかったです。
院長から引き継ぎ、私がMさんを担当させてもらうようになってから、ちゃんと会話が出来たのは今回が初めてだったので、約1年振りにMさんの声が聞けて、しかもちゃんと会話が成り立つコミュニケーションが出来たことが最高に嬉しかったです。本当に感動でした。
翌日の訪問、患者さんの心身の状態は日々変わるので、Mさんがまたしゃべってくれるかどうか分からなかったのですが、一縷の望みを持って居室に伺うと、案の定いつも通りのMさんに戻っていました。しかし、達ちゃんの話では、私が「またMさんの歌を聴けるのを楽しみにしています。」と声掛けした時だけ顔を少し動かしてくれたそうです。やっぱりちゃんと分かっているんだなと思いました。
Mさんは現在98歳。長生きしてくれて本当に感謝です。そして、人としての尊厳を守る大切なことを教えていただきありがとうございます。これからも慈愛を持って、誠実・真心を尽くす支援をさせていただきます。
大切な時間を使い、最後まで読んでくださる皆さん、いつも本当にありがとうございます。